離婚・男女問題コラム

2018.03.19更新

こんにちは。人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。


離婚の際によく問題になるものの1つとして,「婚姻費用」というものがあります。

婚姻費用とは「夫婦が通常の社会生活を維持するのに必要な生活費をいい,衣食住の費用・交際費・医療費・子供の養育費(子の監護費用)・教育費等である。」(内田貴『民法Ⅳ』(東京大学出版会・平成14年・29頁))

婚姻費用 とは「一般的には,夫婦とその未成熟子の共同生活のために必要とされる費用であり,具体例として,衣食住に関わる費用や,子供の養育や教育等に関わる費用,医療費などが考えられる。もっとも,子の状況(病弱であり,生活能力もない場合)や親の経済状況等に応じて,成年の子のための生活費や学費も,これに含まれるとされている。」(窪田充見『家族法』(有斐閣・平成23年・68頁))


? なかなか定義だけみてもイメージできない方もおられるかもしれません。

現在,婚姻費用が実際に問題になることが多い場面は,夫婦が別居をした場合でかつ離婚が成立していない場合です。
このような場合,とくに専業主婦(主夫)の方は,通常,十分な生活費を得る仕事を有していません。このままでは,専業主婦(主夫)の方は直ちに生活に困窮してしまいます。
そのため,このような専業主婦(主夫)の方が,配偶者に対して,生活費等を請求する場合に問題となるのが「婚姻費用」です。
このように,婚姻費用の分担は,夫婦共同体における内部的な関係として位置付けられるものです。もっとも,とくに問題なく家庭生活が営まれている場合には,婚姻費用分担をめぐる問題が生ずることは多くないでしょう。
実際に,この問題が顕在化するのは,婚姻が破綻しつつあるような場面においてです。


ちなみに,この婚姻費用を請求できる or 支払わなければならない根拠は,民法第760条にあります。


(婚姻費用の分担)
民法第760条 夫婦は,その資産,収入その他一切の事情を考慮して,婚姻から生ずる費用を分担する。


婚姻費用については,様々な論点や問題があります。
今回解説をするテーマは,「婚姻費用分担義務の始期」です。
すなわち,「別居した場合,いつから婚姻費用の支払を相手方に請求できるのか?」というテーマです。


●婚姻費用分担義務の始期は「請求した時」


結論としては,婚姻費用分担義務の始期は,一般に「請求した時」と考えられています。

例えば,ある有名な東京高裁の決定は以下のように述べます。

「婚姻費用分担義務の始期は,同義務の生活保持義務としての性質と両当事者間の公平の観点から考えれば,権利者が義務者にその請求をした時点と解すべきである。」(東京高決昭和60年12月26日判タ603号80頁)


上記決定は30年以上前の決定ではありますが,そこで示された考え方は,現在の裁判所でも支持されています。例えば,最近の審判例でも,つぎのように説明されています。

「本件審判において形成すべき婚姻費用分担の始期については,申立人が本件調停を申し立てた平成26年●月とするのが相当である」(東京家審平成27年6月26日判時2274号100頁)


「その始期は,本件調停申立時である平成24年●月分からと認めるのが相当」(福島家郡山支審平成25年6月10日家月65巻7号198頁)

「婚姻費用分担の始期については,婚姻費用分担調停の申立時と解される」(横浜家審平成24年5月28日家月65巻5号98頁)


●始期は婚姻費用分担調停申立時に限らない


上記裁判例をみますと,婚姻費用分担義務の始期は調停申立時に限るかのような気がしてきます(実際,Webサイト上にはそのように断言している解説もあります。)。しかし,結論から申し上げますと,必ずしも調停申立てによる必要はありません。ある裁判例は次のように述べます。


「その分担の始期については,婚姻費用分担義務の生活保持義務としての性質と当事者間の公平の観点からすると,本件においては,申立人が相手方に内容証明郵便をもって婚姻費用の分担を求める意思を確定的に表明するに至った平成●年●月とするのが相当である。」(東京家審平成27年8月13日判時2315号96頁)

この裁判例の匿名解説も次のように述べます。
「婚姻費用や養育費の支払時期については,裁判所の合理的な裁量によって決定すべき問題であるが,実務上は,権利者が婚姻費用や養育費の分担請求をした時とすることが多く,通常は,調停や審判の申立てをした月としている。もっとも,調停や審判の申立てをする前に婚姻費用や養育費の請求をしたことが内容証明郵便や電子メール等で明らかな場合には,その請求をした月を始期とすることが多い。」(判時2315号96頁)


「実務では,義務者の支払義務は,権利者が請求したとき(通常は婚姻費用分担調停又は審判の申立時)に生じるとすることが多いようです。」(秋武憲一『離婚調停(第3版)』・日本加除出版・平成30年・267頁))の括弧書を見落としてはなりません。

投稿者: 弁護士濵門俊也

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